純愛系会話シーンテキスト 【祐二】 「うへえ〜あっちぃ〜……。こんな日はアイスでも食うに限る……ん?」  俺の行きつけの『24アイスクリーム』の前を通ると、見覚えのあるロングヘアーの女の子が、窓にべったり張り付いているのが目に留まった。 【祐二】 「……香織先輩……何してんだ?」  先輩はさながらトランペットが欲しい黒人の男の子みたいな顔で、ヨダレを垂らしながらガラスごしに店内を見つめている。 【祐二】 (もしかして……アイスが食いたいのか……?)  お金持ってるだろうに、普通に店に入って好きなだけ食えばいいものを……。 【祐二】 「あのー、何してるんですか?」 【香織】 「……はっ あ、あなたは……!!」  先輩は『しまった!』という顔で、慌てていつものお上品なポーズを取った。 【香織】 「こ、こんなところでお会いするなんて、奇遇ね〜」 【祐二】 「全くですね。俺と先輩は、運命の赤い糸で結ばれているのかもしれません」 【香織】 「それは絶対にありえないわっ!」  一秒で否定されてしまった。  いくらなんでも早すぎるぜ先輩〜。 【祐二】 「それはさておき……先輩、何してたんですか?」 【香織】 「えっ? 何って、べ、別に……」 【祐二】 「なんかじーーーっとアイス屋を覗いてたようですが?」 【香織】 「し、知り合いが中にいるんじゃないかと思っただけよ!」 【祐二】 「そうですか。俺はてっきり、先輩がアイスを食べたいんじゃないかなーって思ったんですけどねー」 【香織】 「そ、そんな事ないってばっ!」 【祐二】 「そうですか。じゃあ俺、ダブルでキャラメルリボンとラムレーズン食べるんでこれで」 【香織】 「……!! ま、待ちなさいっ! 自分だけずるいわよっ!」 【祐二】 「……やっぱりアイス食べたいんじゃないですか……」 【香織】 「……!!」  先輩の顔が一瞬にして真っ赤に染まる。 【祐二】 「もしかして、お金持ってないとか?」 【香織】 「……す、少しならありますけれど……か、買い食いは家で禁止されてるから……」  先輩は恥ずかしそうにボソっと呟いた。  ううむ、この年になって買い食い禁止って……。  確かにあんまり品の良い行為じゃないけど、なんかかわいそうだな。 【祐二】 「……分かりました。ちょっとここで待っててくださいね」 【香織】 「? え、ええ……」  俺は怪訝そうな顔の先輩を置いて、一人『24アイスクリーム』の店内へと入った。 ;時間経過のエフェクト 【祐二】 「お待たせしましたー。はい、どうぞ」 【香織】 「えっ? あ、こ、これ……」 【祐二】 「俺のオゴリです。勝手にアイスの種類選んじゃったけど、大丈夫でした?」 【香織】 「え、ええ。全然構わないけど……」  先輩は差し出されたアイスを目の前にしてもじもじしている。 【祐二】 「買い食いはダメだけど、俺におごられたんじゃ仕方ないでしょ?」 【香織】 「……あ……」 【祐二】 「ほら、早く食べないと溶けちゃいますよ?」  先輩はしばらく躊躇っていたけど、アイスの誘惑には勝てなかったらしい。  おずおずと手を伸ばし、俺からアイスを受け取った。 【香織】 「……し、仕方ないわね。あなたがそこまで言うなら、頂くことにするわ」 【祐二】 「ええ。お家にはヒミツにしておいてくださいね」 【香織】 「当然よ。……あむっ」  言うより早く、先輩はアイスにかじりついた。 【祐二】 「どうです? キャラメルリボン、俺のお気に入りなんですけど」 【香織】 「すごく……美味しいわ……」  先輩はもぐもぐと口の中でキャラメルリボンの味を堪能している。   【祐二】 「よかったー。気に入ってもらえて」 【香織】 「こ、この借りは必ず返すわ。お礼は言わないからねっ!」 【祐二】 「はいはい。期待して待ってますよ」 【香織】 「アイスと等倍のお礼よ! 過度な要求はしちゃだめなんだからっ!」  先輩はアイスを持ったまま、だーっと商店街をダッシュで駆けていってしまった。  ありゃりゃ……。 【祐二】 「もちょっと話したかったのになー……まぁいっか」  さっさとアイスを食って俺も帰ることにするか。