そ ら の と び か た




 いつも、爪先立ちで歩いていた。
 道を逸れないように。
 はみださなないように。

 そうしないと、わたしはまっさかさまに谷底に落ちてしまいそうだったから。


 でも大丈夫。笑ってさえいれば、大丈夫。
 どんなにつらい事があっても、笑顔でいれば、きっときっと大丈夫。

 ねえ、わたし、ちゃんと笑えてるかな?
 ちゃんと、他の子みたいに普通に出来てるかな?

 それだけが、いつもいつも、気になって仕方なかった。

 ひとりぼっちでも大丈夫。
 お友達がいなくっても、大丈夫。

 だいじょうぶ、だいじょうぶ。
 そう言い聞かせているうちに、私の感情はさかさまになってしまった。

 悲しいのに、泣けない。
 嬉しいのに、笑えない。

 仲良くしてくれて嬉しくても、わたしはわんわん泣いてしまう。
 そして、みんなを困らせてしまう。
 自分でもどうしていいかわからなくて、わたしはますますひとりぼっちになっていった。

「じゃあ、泣けばいい」

 突然現れてわたしのお家にやってきたあの人。
 あの人はきっぱりとそう言った。

「……えっ?」

「お前は嬉しいと涙が出るんだろ? じゃあ泣けばいいじゃないか」

「……でも、普通はね、嬉しい時にわらうんだよ……」

「誰がそんな事決めたんだ? お前がしたいようにすればいい」

 その人の言い方は冷たく聞こえるけど、わたしには……わたしにだけは、あたたかく心に染みわたった。

「にははっ……往人さん、へんなのっ……」

 わたしはにぱっと微笑んだ――つもりだった。
 なのに、涙がころころと目からこぼれて止まらない。

「っ……うっ、うえっ……」

「おかしいな……わたし、嬉しいのに……」

立ち尽くしたままぼろぼろ涙をこぼすわたしを、往人さんはぐいっと抱きしめてくれた。

「っ……うええっ……」

「うわあああーん! あーん、うわああーーーーーーん!」

 わたしの中の堤防が壊れてしまったみたいに、わんわんと泣き続けた。
 涙の海で溺れてしまいそうなくらいに、わたしは泣いた。

 嬉しかった。すごくすごく嬉しかった。
 このまま涙が枯れてしまうくらい泣いたら……次は嬉しい時に笑顔になれる。
 そんな気がした。