さ か な



男があたしの腰を抱く。
あたしの下着をせわしく脱がせ、乳房に舌を這わせる。
「すげえ、おっぱいでっかいね」
華奢な体つきの割に大きく、形のよい乳房は、あたしのひそかな自慢だ。
だけど、そういうのをおおっぴらに見せびらかすほどあたしは恥知らずではなかったので、
「いやだ・・・恥しい」
と、恥らっておいた。
男は「可愛いね」というと、今度はあたしの乳首をしゃぶりはじめた。
それに反応して、あたしは小さくうめいた。
「感じてるんだ?」
男はニヤッと笑って、あたしの顔を見た。
「・・・・あ・・・」
あたしは返事の代わりに、喘いでみせた。

やがて、男の手は、下半身に伸びてきた。
あたしは、やがて訪れるであろう快楽に、身を固くした。

テレクラで知り合って、待ち合わせして、男の部屋に入って10分。
まあ大体こんなもんだろう。
相手はそもそも、既に発情した状態でテレクラなんてものにかけてきているのだ。
10分も我慢したのは褒めてやるべきかもしれない。
男は、電話で強調してたとおり、確かに背が高くて細身だった。
顔は、目のあたりが落ち窪んでいてちょっと気持ち悪いとこがあったけど。

男の部屋には、大きな水槽があった。
何もない、がらんとした部屋に鎮座したその水槽の中には、やっぱり大きな魚が泳いでいた。
畳一畳くらいは占領しているのではないかというその水槽の中でも、魚は少し窮屈そうだった
「シルバーアロワナだよ」
興味深く見つめるあたしに、男はその魚の名を言った。
「大きいね」
ウロコを銀色に光らせ、シルバーアロワナは尾ひれをぱたぱたさせている。
「ちょっとせまいんじゃない?」
あたしは、既にパンツも脱がされ、一糸まとわぬ姿になって男の愛撫を受けていた。
びちゃびちゃと、男があたしの愛液を舐めとる音がいやに響く。
男は案外テクニシャンで、あたしはAV女優みたいな声をだして喘いでしまった。
見た目に反して、きちんと筋肉がついている背中にしがみつく。

アロワナに見られている。
と思うと、ちょっと変態的な気分だ。
アロワナの目に、あたしはどう映っているのだろうか。

こんな夜中に、見知らぬ男の部屋に上がりこんでアンアン言ってるなんて、とんでもない
ヤリマンでしょうか。
こないだ彼氏と別れちゃって、ちょっと人肌恋しかったんです。ごめんなさい。
実はこれで5回目です。

アロワナの、大きな体に似合わない小さな目が、あたしを見ている。
相手はあたしのことを単なる穴としか思ってないけど、あたしも相手のことを単なる棒としか
思ってないんです、ごめんなさい。

ごめんなさい、ごめんなさい、こんな女でごめんなさいね。

誰に謝っているのかわからないけど、あたしは大きな声で喘ぎながら、ずっとごめんなさいを
繰り返していた。
男の肉棒があたしの膣をこする。
体は十分反応しているのだけれど、頭の芯が、忘れてくれない。
ああ、早くいってくれないかなあ。
あたしは、思いっきり膣に力をこめて、締め付けた。
「いってもいいんだよ」
男がゼエゼエ言いながらさらに激しく腰を動かしてきた。
ごぽごぽ、ごぽごぽ。
水槽の濾過器のようなものが、空気の泡を吐き出す。
そろそろ頃合いかなあ。
あたしは、わざと声を張り上げた。
「あああ!いっちゃう!いっちゃうよお!」
がくがくと、腰を振って髪を振り乱す。
それを合図のようにして、男もさらにストロークを早め、射精した。
汗ばむ肌に、髪の毛が張り付く。気持ち悪い。
アロワナは、もうこちらを見ていなかった。
なんだかあたしは、見捨てられた気分になった。


コトが終わったあと、あたしはシャワーを借りて、そそくさと男の車に乗り込んだ。
(律儀にも送ってくれるらしい)
「気持ちよかったよ」
男はスッキリした顔でそう言った。
「あたしもよ」
にっこり笑って、自販機で買った烏龍茶の缶に口をつけた。
「ねえ」
「何?」
男はこちらを見ずに返事した。
「アロワナも、発情するのかしら」
「するんじゃないの?」
男は興味なさげに答えた。
「じゃないと、繁殖できないしね」
繁殖。
では、繁殖しないあたしたちのセックスはなんなのだろうか。
セックスしていれば、ぽっかり空いた穴が埋められると思っていたのに。
どうしてこんなにさみしくなるのだろうか。
満ち足りた表情で鼻歌を歌う男の横顔が、妙に憎たらしく見える。
どうして私は、この男みたいに単純に満足できないんだろう。

CDコンポから流れる、甘ったるいアイドルグループの歌をぼんやりと聴きながら、
あたしはそんなことばかり考えていた。

アロワナは、あたしを見て発情してくれただろうか?